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金継ぎについて

日本の伝統工芸の中の一つ、漆芸。(しつげい) 縄文時代にはすでに土器を漆で直した跡が見つかっています。その後、茶の湯の栄えた室町時代に漆芸の職人が、抹茶碗を漆で直し、その傷跡を蒔絵という技法で装飾したことから金継ぎは始まったと言われています。​

近頃色々なところで金継ぎを目にするようになりましたが、そのやり方は様々で、その全てが「金継ぎ」と呼ばれています。ガイドラインや免許などがないため、漆を使った伝統的な本物の金継ぎと、合成塗料などを使った金継ぎ風のものが混在しています。金継ぎが広まったこと自体は大変喜ばしい事で、伝統的な金継ぎだけが良いとは言いませんが、違いがあることを是非知って欲しいと思っています。​

 

漆をきちんと扱えるようになるには、かなりの経験を必要とします。お直しをお願いするとき、金継ぎ教室で学ぶときなどは、主催者の経歴やプロフィールをしっかりと確認することをお勧めします。漆や蒔絵の研修所や漆芸科のある大学などの経歴があれば安心です。仕上がりに関しては本当に人によって違いますので、たくさん見比べてご自身の好みのものを選ぶとよいかと思います。

 

金継ぎは、大きく分けると3つのやり方があります。見た目には似ていますが、使っている素材が大きく違います。

①漆や天然素材、本金や本銀のみを使って直すやり方

②接着のみ樹脂で行い、表面を漆で仕上げるやり方

③接着剤や合成塗料、真鍮粉、アルミ粉などの合金パウダーなどを使うやり方

 

①について

漆を扱うため、専門の知識や経験、技術が必要です。漆のお直しは時間がかかりますが、長く使うことができます。使用する本金、本銀、漆は天然素材のため、食器のお直しにも安心です。最低でも2~3カ月かかります。お金を払ってお直ししてもらう場合、金継ぎ教室で学びたい場合には、漆を使ったこちらをお進めします。

②について

こちらも漆を扱うため、専門の知識や経験、技術が必要です。接着を樹脂で行うので、漆での接着より比較的短期間で仕上がります。接着以降の作業は漆、本金、本銀を使用します。①と仕上がりの見た目の違いはありません。1~2カ月程度で仕上がります。表面は漆で仕上げるため、食品に樹脂が触れることはありません。急いでお直ししたい場合に向いています。接着する素材によっては、漆での接着よりも強力に接着されるというメリットがあります。

③について

比較的短時間ででき専門知識が必要ありません。 体験ワークショップに向いています。初めての金継ぎ、簡単金継ぎとして販売されているキットや書籍の多くはこちらです。

注意することは人体に有害なものを使っている場合があります。また、とても剥離しやすく日常で使う食器には向きません。簡単なものなら1日で仕上がります。

ホームセンターや釣り具店で購入できるもの、新うるし、合成うるし、漆科植物から採取した特殊なうるしと記載されているものも合成塗料で、漆ではありませんのでご注意ください。

誰でも簡単にできますので、金継ぎが初めてで雰囲気を知りたい方にお勧めです。

私が行っているのは漆を使った①と②です。見た目に違いが分かりにくいのが難しいところですが、「違いがある」ということを知っていただけたらなと思います。テレビや雑誌にでる有名な所でも漆を使っていない場合があるので、きちんと調べて、ご自身に合ったものを選んでいただければと思います。

金継ぎ面白い!と思ったら、是非漆を使った本物の金継ぎを選んでいただきたいなと思います。

漆の木の話

金継ぎで使う漆。あまり知られていませんが、現在国内で使用されている漆のほとんどが中国から輸入されています。国内の漆の自給率はなんと2%!!輸入が途絶えてしまうと、完全に漆の文化が失われてしまう数字です。

漆は漆の木の樹液を採取・精製し作られます。苗木を植えてから漆を採取できるように成長するまで15年ほどかかります。幹に傷をつけて樹液を採取するため、一本の木からとれる量には限界があり、(一本の木から1シーズンで200cc!)採取できなくなると伐採されます。また新しい木を植え、漆を採取できるようになるまで数年~十数年。その長いサイクルを繰り返すことで漆は生産されています。

漆の現状

輸入元の中国でも経済発展が進み、漆の木は伐採され、より収入の得られる作物の畑に代わっています。さらに賃金の安い漆掻き職人の確保も難しくなっています。今までのようにこれからも漆が供給される保証はありません。

そのような現状を危惧し、国内の漆の栽培を増やすため文化庁は、平成30年から国宝などの建造物の修復に全面的に日本産の漆の使用を目指すと発表しました。現在では、少しずつですが各地の漆器の産地や地元の有志、漆芸関係者の協力もと全国で漆の植栽活動が始まっています。

​漆の時間は時代のスピードに合っていない。確かにそうかもしれません。漆を採取するのにも、それが製品になるまでにも、膨大な時間と人の手を必要とします。しかし、本当にいいものをきちんと次の世代に伝えていきたい。漆の文化をつなぐこと、それは少しでも多くの人に漆について知ってもらうこと、漆の良さを体感してもらうことから始まると思っています。

大切なもの

祖母から譲り受けた汁椀です。欠けたりヒビが入ったりした所を修復して、今私が使っています。ものを大切に、世代を超えて使う喜び、漆の良さを金継ぎを通して感じていただけたらと思います。

この写真は祖母から譲り受けた漆塗りの汁椀です。所々、表面の塗膜にヒビが入ったり、ぶつけて欠けたところを直して今私が使っています。

​安くて便利なものが簡単に手に入り、使い捨てが当たり前の時代。「壊れたから捨てよう」「また新しいものを買わなくちゃ」当たり前のようにそう思っています。

捨てる前に一度、立ち止まってみてください。「直す」という選択肢。

値段やブランドに関わらず、自分の好きなものを選び大切にする心。永く丁寧に使うことによる愛着、世代をこえて使い続ける喜び。
 
金継ぎを通して、漆の魅力を感じて頂けたらと思います。

​漆と金継ぎ さらは 代表 樋口麻耶

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